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「東京は水の上の都である」――この印象的なタイトルから語り出される『やがて水に帰る』は、あくまでも緩慢に水上を滑っていく船上からの映像が主調となった、東京という場所をめぐる物語である。近代の記憶と現代の風景が二重写しのようにかさなり合うなかで、ある種の既視感をともなった古風な恋愛譚が繰り広げられつつも、いつしか物語は寸断・解体され、まるで題名をなぞるかのように、画面は "やがて水に帰" ってくる。

 

 この詩的かつ懐古的な作品を世に送り出したのは、これが久々の劇場映画作品となる榎戸耕史。『・ふ・た・り・ぼ・っ・ち・』『ありふれた愛に関する調査』などの監督作品とともに、相米慎二の右腕として日本映画を支えてきたことでも知られ、現在は大学で教鞭もとる榎戸が、いみじくも「大学という場だからこそできた」と述懐する自由闊達なその映画作りは、<夏><冬><春>という三つの季節をまたぐ、三つの偶然/必然をモチーフにした三つの連作短編を、三年の年月をかけて完成させるというきわめてユニークなものとなった。

 主演に前田亜季、寺田農ら実力者を迎え、撮影の丸池納、美術の金勝浩一、スタイリストの小川久美子などのベテランスタッフとともに、映画を志す学生が参加した制作スタイルは今後の日本映画のあり方にも一石を投じることになりそうだ。

「あなたを見かけたことがあります」

「私もなんだかそんな気がします」

 

偶然が三つ重なったとき、運命の船が

水の都 東京を滑走し始める――

「稀有なる実験作」の誕生!

 

イントロダクション

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